内閣府所管 公益財団法人 日本教材文化研究財団

平成19年度 【特別刊行物】
『生かす算数・生かす数学シリーズ』

はじめに
杉山 吉茂  編集代表

私達は,平成10年の学習指導要領の改訂で算数・数学の内容が3割削減されたのを憂い,「我が国の望ましい算数・数学のカリキュラム」の開発を思い立ち,日本教材文化研究財団のご好意とご協力を得て,平成12年からカリキュラムの研究・開発に当たり,平成14年にその案を発表した。その後,平成15年からは,そのカリキュラムを具体化する教科書の執筆活動にもご協力をいただいてきた。

さらに,今回,東京書籍のご好意も得て,ここに教科書の形で発表することができるようになった。日本教材文化研究財団と東京書籍に心から感謝するとともに,本教科書の作成にご協力いただいた多くの方々にも心から感謝の意を表する次第である。

本教科書シリーズ「生かす算数・数学」の特色

本教科書の作成にあたっては,次のことに心掛けた。

  1. 数学を利用する能力と態度の育成
    これからは,これまで以上に数学を利用する機会が増え,数学を用いて事象を数理的にとらえ,そこにある問題を適切に処理できる能力と態度を身につけることが欠かせない社会になる。そうした社会では,すべての子どもが数学を活用して現実世界の様々な事象を表現し,その仕組みを解明し,数学を用いて予想したり問題解決を行ったりすることができるような算数・数学教育をすることが求められる。このようなことはこれまでも言われてきたことではあるが,これまでの算数・数学の指導は,まず数学の理解をはかり,技能を習熟させ,そのあと数学を用いて問題を解決させるという形,つまり,数学の理解→応用という形で行なわれてきたが,そのような応用は数学の理解や習熟の程度を試すためと考えられ,数学が役に立つという意識を育てられないできた。
    本教科書では,身の回りの問題を数学を用いて解決することを中心にするとともに,数学の有用性が分かるようにするため,まず,解決したい問題を提示し,その解決に必要な数学を学んで問題を解決することを通して,数学を用いることによって問題が解決できたという気持ちが生まれるようにした。
    そうしない単元では,数学を学ぶ必然性が分かるような展開を工夫した。
  2. 教える数学のレベルの向上
    身の回りにある問題を数学を用いて解決できるためには,事象を数学的に表現し処理するために必要な三角関数や指数関数などのいろいろな関数,微分・積分の基礎までを身につけていることが必要であると考え,高校1年までにそれらをすべての生徒が学習できるようにした。
  3. テクノロジーの活用
    グラフ電卓やパソコンなどのテクノロジーを適切に活用し,計算などの技能の習熟に必要な時間を少なくすると同時に,これまで処理できなかった計算をしたり,手で書けなかったグラフを描かせたりすることなどによって,解決できる問題の幅を拡げるようにした。
  4. 単元構成
    学習の効率等を考え,単元の構成をこれまでと変えたところがある。たとえば,小学校では,これまで小数と分数の学習は別々の単元で学習してきたが,本教科書シリーズでは,小数と分数を関連づけて学ばせるたあ,小数と分数を同じ単元で学習させるようにした。
    中学校では,これまで方程式と関数は単元が分けられ,方程式→関数の順序であったが,関数の単元の中に方程式を含めて学習できるようにした。