―小学校学年別配当漢字の習得状況に関する調査研究―
漢字習得調査結果の内容
学年別配当漢字の習得状況一覧表
- この調査内容は小学校・学年別配当漢字1006字の習得調査の結果である。配当漢字1006字とその音訓読み、合計1759字について行った。平成11年6〜7月中に全国の公立小・中学校の66校、788学級、児童・生徒数2万6787名を対象とした調査である。漢字1字当たり平均して約500名の児童・生徒の漢字習得状況の平均値を算出し、%で表した。
- 調査問題に対し解答したものを採点基準にしたがって厳正に採点し、読むことの習得状況については正答率を出し、その習得状況を把握した。書くことの習得状況については正答率の他、無答率及び誤答率を出し、誤答の中から特に多いものを三つ提示し、誤答例として示した。
- 一覧表における調査漢字の配列は、第1学年の配当漢字から順に、第6学年まで1006字を五十音順に示した。表の見方について、例を挙げて説明する。
第2学年(2) |
「読み」の
正答率 |
「書き」の調査結果 |
漢字 |
読み方(学年) |
「書き」の問題 |
正答率 |
無答率 |
誤答率 |
外 |
ガイ |
外国に行く |
95.6 |
93.2 |
3.5 |
3.3 |
そと |
外で遊ぶ |
98.9 |
95.3 |
1.2 |
3.5 |
ほか(5) |
その外の意見 |
59.4 |
11.5 |
18.1 |
70.4 |
はず−れる(3) |
くじが外れる |
66.9 |
54.2 |
42.4 |
3.4 |
角 |
カク |
四角なはこ |
95.5 |
54.7 |
9.0 |
36.3 |
かど(4) |
角を曲がる |
74.0 |
73.8 |
17.0 |
9.2 |
つの(4) |
牛の角 |
92.5 |
78.5 |
16.4 |
5.1 |
- (1)上記の表は、2年配当漢字の「外」と「角」の習得状況を示したものである。「外」についての読み方(ガイ、そと、ほか、はず−れる)の音訓読みが示してある。音読みはカタカナ、訓読みはひらがなで表記した。
- (2)調査実施の学年は( )の中に示しており、「ほか」は5年で、「はず−れる」は3年で提出され、それぞれ該当する5年と3年で習得調査をした。数字が記入されていないのは、配当されている2年生で実施したものである。
- (3)漢字をどのように出題したかについては、「書きの問題」として示した。書くことの問題はこのように文の形で提出し、読むことの問題はこれより短縮して提出した。
- (4)調査結果の正答率・無答率・誤答率は、各解答用紙を採点して、一字当たりの平均値を算出した。数字は四捨五入し、少数第一位まで出した。書くことの正答率・無答率・誤答率は%で示し、合計は100%になっている。
学年別配当漢字の平均習得率
小学校学年配当漢字1006字のすべての漢字(音訓を含む)を対象に、その習得状況を調査した。漢字を正しく読んだり書いたりしたものを正答とし、習得できたものと考え、調査した全漢字の読むことと書くことの平均習得率を算出した。
ア *どの学年も読むことより書くことのほうが習得率が低い
棒グラフから分かるように、どの学年も読むことと書くことの習得率には、かなりの差がある。
各学年の配当漢字について、小学生はどの漢字もおよそ9割程度は読め、7割程度は書くことができることが今回の習得調査から分かった。さらに、子細にみると次のように考えられる。
- (1)読みの平均習得率は各学年とも80%を超え、学年配当漢字の大体は読むことができる。
- (2)書きの平均習得率は読みよりも低く、特に、1年生では読みは90%を超え、その 大体を読むことができるが、書きでは2年生で80%、3年生では70%、4年生では60
%台となり、学年が上がるにつれて漢字を書く習得率は低下していく。
- (3)1・2年生は、漢字の読み・書きの習得率はともに80%から90%台であり、低学年 においては、学年配当漢字の大体を読んだり書いたりすることができる。
- (4)3年生以上6年生の漢字の読みの習得率は、90%前後を維持しつつ、緩やかに下降する。しかし、6年生においても88%程度の習得率であり、読みにおいては学力低下という心配は見られない。しかし、書くことにおいては4年生を境に急激に習得率が低下する。
- (5)読みと書きの比較を学年ごとに見ると、高学年ほどその違いが大きくなる傾向にある。即ち、高学年では書きの平均習得率は、読みの平均習得率の約7割の大きさである。
イ*読むことと書くことの習得の実態から考えられること
平成元年版の小学校学習指導要領では、各学年の配当漢字のめやすを、「その学年に配当されている漢字を主として、それらの漢字を読み、その大体を書くこと」と明示されている。このことは漢字を読む能力と漢字を書く能力とは別のものであるという認識である。したがって、学年ごとに配当されている漢字は原則として当該学年で指導することとするが、子どもたちの学習負担が過重にならないように、必要に応じて1学年前(振り仮名をつけて提出)または1学年後の学年において指導することもできるようにした。
この学習指導要領の指摘は極めて妥当であり、今回の調査から、特に4年生以上において、漢字を書くことの能力は当該学年に配当されている漢字の60%程度の習得率であることを直視したい。
以下、実態調査から考えられる問題について述べる。
- (1)漢字を読む能力と書く能力は、書く学年とも差がある。これは漢字を読む能力と漢字を書く能力とは違う能力であることを示している。
- (2)漢字を書くことは、一般的に難しい。漢字の筆写の際には、字画の長短、方向、付ける離す、止める払うなどにも注意して書かなければならない。それぞれについて許容される書き方は認められているけれども、実際の指導については、学習指導要領に示された標準字体をかたくなに守ろうとする傾向がある。
- (3)漢字には一点一画をおろそかにしてはいけない厳しい原則と、一点一画はどうでもよいという相反した原則から成り立っている。例えば、「大・太・犬」「天・夫」「未・末」のように僅かな違いで全く意味の違った別の漢字になる。一方、「毎・海」はもと母であり、「抜・者」にはそれぞれ友の右肩、日に上に点があった。付けるか離すか、払うか止めるかに関する漢字にも許容の例が多くある。実際に書くときには、「少・歩・妙」の縦画をはねなくても許容される。こうしたことが複雑にからみあって、漢字の学習を困難にしたり、いい加減なものにしている。
- (4)漢字の読むことと書くことの指導は、今までは同時に行っている。教科書に新しい漢字が出てくると、まずその漢字の読みを教え、次にその意味を教える。また、ノートに書いたり作文に使ったりするために筆順を教える。同時に点画の注意を加え、字形をしっかり覚えさせる。さらに書き方を徹底するために漢字テストを行う。機械的にノートやドリル帳に書かせ、漢字テストを繰り返すことによって読み書き同時に習得させようとする。そのような努力にもかかわらず、高学年にいくにしたがって、漢字を書く力は依然として習得が不十分なままである。
- (5)今回の漢字習得の実態調査でも明らかなように、低学年の読み書きの修得率はきわめてよい。
各学年とも読みの習得率は高いが、書きの習得率は低く、両者の間にかなり開きがある。読みの習得率は学年が進んでも余り下降しないが、書きの習得率は3・4年ごろから急激に下降し始める。漢字の指導法が機械的であり、漢字ぎらいの子どもを増やしているという指摘がある。これからの漢字指導は、児童・生徒の実態をもとに、新しい学習指導要領で明示された「当該学年の前の学年までに配当されている漢字を書き、当該学年に配当されている漢字を漸次書くようにすること」を生かした読み書きの分離した適切な指導法の開発が必要である。